【中絶体験談】Episode.04 「中絶する」という選択

「中絶する」という決断
僕たちの出した結論は、中絶するという選択だった。
やはり育て切る自信がないからというのが理由だった。
心から愛情を注いで育て切ることができないかもしれない。
子どもを憎んでしまうかもしれない。
だから、中絶したい。
という利己的な理由。
人を殺してまで将来やりたいことってなに?
僕はそんな問いを考え続けていた。
お金持ちになることとか、社長や管理職になることとか、社会的に評価されることにあまり価値は感じない。
最悪、アルバイトでも死にはしない。
まだ産まれてきていないとはいえ、1人の人間の命がそこにあることは確かである。
人を殺してまで将来やりたいことなんて僕にはなかった。
普通に普通の人生を歩むこと。
それが一番かけがえのないもので、彼女も、親も望んでいたことなのだろう。
理解できないわけではもちろんない。
ただ、若かった自分にはすんなりと受け入れられなかった。

手術の準備
人工妊娠中絶手術は、前日に中絶用の準備の処置を施して、翌日に実施する。
同意書にサインして、産婦人科へ向かった。
手術代は約25万円。
経済的理由による人工妊娠中絶手術は保険適用外になるので、ある程度の費用がかかってしまう。
僕はそんなにお金がなかったため、3ヶ月以内に返済することを約束して親から借りた。
自分の無力さ
サインするなら、婚姻届にサインしたかったなと思った。
一生懸命働いてお金を稼ぐなら、ポジティブなことに使いたいなと思った。
でもそれは叶わない夢だった。
自分にお金や能力があれば。
そう強く思った。